河村塔王「審問」
読了。例によって感想文。
・まずは「大麻ヒステリー」の方から。面白かった。著者が科学者であることもあって、主張には必ず数値やデータが用いられていて良い。過激な言葉遣いや意見のない主張は、キャッチーではないが、しかし見た目以上に受け入れやすいと改めて感じた。
・「段階的に理解を深めてもらうために重複を恐れない」というフレーズがお気に入り。なるほど確かに、全体のまとまりの良さからすると、違和を覚えるほどに特定の主張や知識を繰り返していた。であるからこそ、「今の議題と筆者の主張はどう聯関しているのか」が常に明確であったように感じる。まとまりの"悪さ"を作る工夫というテクニックもあることを学んだ。
・「大麻の歴史」から始まり、「大麻の成分や地域ごとに生じる特徴の相違」、「生じている誤解とその実態」を示して、最後に「大麻をどうしたらよいか」を持ってくる構成は納得のいくものだった。
・要するに「大麻は麻薬ではなく、むしろ嗜好品の中でも害の少ないものであるのだから、規制を解除すべきだ」という話なんだけれども。そこに持っていく例示が上手い。中でも印象に残ったのは、"娯楽は南からやってくる"という話だった。
・南国は気候が温暖であり、食べ物に恵まれており、生活が楽だ。だからこそ「働きすぎない」必要がある。怠けて生きていても暮らしていけるのに、その上で「頑張って」しまうと、後々の食べ物が無くなってしまうほどに取り尽くしてしまうもいうわけだ。
・サバンナに住まうライオンがあまり出撃せず休んでばかりでいるように、食物連鎖の頂点は「働かない」必要がある。でなければ社会から持続性が奪われてしまうからだ。
・しかし人間は頭脳の働きが活発であるため、「なにもしない」に向いていない。そこで、暇を潰せる娯楽が必要となり発達した…というわけだ。
・頷ける話である。実際に、緯度が上がるにつれGDPが上がるというデータもある。北の国は寒く、食べ物に乏しく、生活が苦しい。よって、働かなければならない。
・貧しい者には貧しい者の、富める者には富める者なりの悩みがある。立派な彼だって苦しい夜があって、隣の芝はいつだって青い。人の苦しみはそれぞれであり、貴賎は無い。それを実感させられる話だった。
・次いで「審問」。これは年末のコミックマーケットで購入した短編。お話を書く"作者"と、その物語の登場人物になりたい"志望者"の対話形式で話が進む。
・物語のためには登場人物はめちゃくちゃな目に合うこともある。あなたにその覚悟はあるのか、今の生活を捨ててでも登場人物なんかになりたいのか、と"作者"は問う。"志望者"はそれでも、という。「何者か、になりたいだけなのです」と。
・それは呪いでしかない。衣食住に満たされて始めて哲学を必要とするように、刺激を求めるのは満たされている者だけだ。あとになって、平凡でよかった、それを愛していた、といったって遅い。好奇心は猫を殺す。けれど彼は、それでも「何者か」になりたいという。
・正直、そこからあと、後半の方はよくわからなかった。なにかの引用ではあるようだけど、私はそれを知らない。だから、前半の方だけで解釈した。これも南国の民族/北国の民族と同じように、人には人の苦しみがあるという話だと思う。
・私たちが、誰かの悩みや苦しみに対して「お前は○○だからそんなことが言えるんだ」「いざこっちの身になってみろ」というのは、些か隣の芝の青さを信じすぎているのかもしれない。私たち一人一人がそれぞれ、「自分は人より苦しんできた」「痛みを知っている」と思うように、他人もまたそうである、ということを忘れてはいけない。
・人には人の悩み。自分には自分の悩み。本質的に「誰かと分かり合う」ことはできない。しなくていい。けれど、自分の悩みは高尚化しすぎず、人の悩みを切って捨てないことは必要だと思う。